医療通訳|医学通訳|内視鏡手技(日英・日中)
今日お話させていただくのは約 10年前に米国のラスベガスで行われたラボ体験です。
当時アメリカのベンチャー企業が開発していた低侵襲なデバイスで、ナイフを使わず内視鏡下副鼻腔手術を可能にするという、前衛的かつ操作しやすいようなものでした(その後どうなったのか分からないが、おそらく今でも日本には入っていないと思います)。
コンセプトはバルーンがついたカテーテルを用いて鼻に入れて患部をバルーンで拡張し、その拡張力で鼻腔内の軟骨や粘膜病変を破る(形を変える)ことです。カテーテルの先端に明かりがついていてカテーテルの先端が今どこにあるのか、患者の顔(皮膚)の上からも分かるのです。
ご遺体(cadaver)を使った手術手技研修の実施は法律などの事情もあり日本では基本難しいです。そういう意味でも海外ラボならではの体験でした。ちなみに、オーストラリアは、自分の権利を言葉で主張できない動物の方が大事にされているので、アニマルの場合、事前に献体となる動物の最良のケアや環境を与えるのと、当日術中にも最良(最も苦痛のない)状態に保つための専門動物医が必要なので、コストは断然に cadaver より高価なのです。
当時このアメリカで行われた cadaver ラボですが、私は医療機器処置具代理店の社員として参加させていただきました。薬事と営業の責任者に日英・英日通訳者やコミュニケーションの助っ人として送り込まれました。事前に大量の資料や文献、そしてマニュアルや教科書みたいなものがバインダーで渡され、勉強しておきました。
Cadaver を体験できるというのは、なかなか貴重な機会なので、私は大変楽しみにしておりました。一方、薬事と営業の責任者の二人(男性)はご遺体ということに抵抗があり、ずっと難色を見せました。
いざ、当日になるとこれはびっくりです。実は cadaver(ご遺体)を聞いててっきり完全に一人の人間の人体として出されるかと思ったら、首から上、要するに完全に生首しかありませんでした。でも、考えればそうか、鼻用のデバイスなので貴重なご遺体を全部使うわけなく、必要な部位だけが使用されるのです。納得。
にしても異様な光景でしたね。内心でどこか滑稽ですらある状況だと思ったのは私だけではなかったはず(と思いたい)です。
さてと、実際どういう風にして出されたかというと、当たり前ですがキンキンと冷凍された固い状態で出されます。さすがに参加者たちの気を害しないためにか、目の部分は布で被られています。しかし、ここが問題です、あまり硬すぎるとバルーンで粘膜を破壊する時に実際の臨床的な状況と異なってくるので、常温で少し解凍されたところがベストだそうです。
しかし、溶き始まってからは時間との勝負です、なぜならば溶けば溶くほどドロドロなものが出てきて今度は逆に手術手技の実施や実演に支障が出ます。この時は、一検体を使ったワンセッションは 3時間以内で終了してください、と言われました。
そして溶けば溶くほど臭いがきつくなります。実はセッション中にラボの中でお香をたてられました。これは亡くなった方を弔うためではなく臭いをやわらぐためです。この臭いは服についてしまうので、ホテルに戻った後も消えません。そして、不思議なことにホテルに戻ったその夜は着替えても部屋の中に cadaver の臭いとお香の香りが両方漂っていました。やっぱり、残るのですかね。
人によってはこれが一番きつかった(怖かった)のかもしれません。
オーストラリアのラボは自分が担当するアニマルラボのために下見に行った際に外科研修医の研修用のための cadaver の保存庫を見せられたことがあります。体というよりもすでに細かく部位別にバラバラに解剖したり保存したりされて、そして外科医研修用のためなので、基本腕や足のどこかの部位しか使われないそうです。
私のお婆ちゃんが数年前に 93歳という長寿で亡くなったのですが、火葬でした。骨をひろう時に葬儀屋さんに言われたのは「骨の色を見ればその方の生前の疾患や健康状態が分かる」とのことでした。人間の体って本当に奥が深く面白いのです。
英語通訳の面で専門的な内容に関しては特に難点はありませんでした。ハンズオンのセッション中は常に話があったわけではないので、手技的な部分はデモストレーションの動きを見れば大抵わかります。
座学の方も参加者事前に資料が渡され、ある程度翻訳したり、日本からの参加者は事前に読んだりすることによって当日聞きなれない鼻の疾患や画像診断の用語がでても、薬事の方や営業マネージャーには伝わりました。
しかし、毎回思うのですが、本当に専門的な内容における通訳は、単語をいかにシステム化にできるのかが勝負だなと改めて実感しました。
次回は、オーストラリアや日本のアニマルラボについてお話しいたします。
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